『Left Turn』
未来は右に、過去は左にあるというのが現在では多数派の感覚なのかもしれない。
時計の針、レコードやCD、フィルムリール、地球から見た日の動きなどを見ていればそれらは右に向かって回転する。階段を上がる、ねじを締める、何かを開始する際、私たちもまた右を目指して動作する。
対して、スケートリンク上で人は一様に左に回る。
秒針に逆らって、太陽の作る影と一緒に、くだらない漫画のページをめくるように左へ左へ進んでゆく。生きているなら過ぎてゆく時間に沿って歩いてゆくしか方法はなく、今日見た景色も交わした言葉もあっという間に過去として押しやられてゆくけれど。レフトターン、それを3回繰り返す。
すると、かつて滑りはじめた地点がいつの間にか目指すべき場所となって見えてくる。どこへも行けない氷上で、どこまでも進んでゆけば見覚えのある未来へたどり着く。不可逆への反逆のように、叶わないと知りながら祈る祈りを祈るように、レフトターン、私たちは左に回るのだ。
1995年生まれ。2018年京都造形大学情報デザイン学科イラストレーションコース卒業後、作家活動を開始。漫画の1コマあるいは1ページを、物語に回収される一部分としてではなく、独立した一瞬そのものとして一枚の絵画に提示し保護する。連なる存在でありながら物語に回収されることに抗う瞬間、個々が個々のためにあることの表現を試みている。